くもりのち晴
                                
(ほう)の葉           

 わが家の狭い庭には、ちょっと不釣り合いな大きな朴(ホウ)の木がある幹周り50センチ、二階の大屋根より高い。苗木から育って30年を越える。大きな葉は木陰をつくってくれる。葉を落とした冬は、野鳥たちの物見台になる。

 この木はひょんなことからわが家にやってきた。ある日、姫路から上京してきた親父が裏の雑木林に散歩に出かけた。踏み分け道に生えていた小さな苗木をひくとすっぽり抜けたという。
 その苗木を持ち帰り、殺風景だったわが家の庭先にさしておいた。日当たりのいい庭で、木はどんどん成長していった。秋には仁王のわらじのような大きな落葉で庭が埋まるほどになった。

 わが家の増改築のたびに邪魔になった。「切っちゃいましょうか」と大工さん。そのたびに、親父が植えた木ですからね、と答えてしぶしぶ残してきた。       
 その木に関心を持つようになったのはずっと後のことだ。 春先、枝の先に白い大きな花を咲かせるのも隣の人から教えられた。平屋の住居からは見えない高さに花を付けていたのだ。もっとも、花の好きな女房は、その香りに季節を感じていたらしい。
 木が植えられたのは息子のゼロ歳のときだった。女房は朴の成長と息子の成長を重ね合わせていたと後になって聞いた。 動物はともかく植物には関心がなかった亭主は、飛騨で味わったあの朴葉焼の朴の葉とわかってからにわかに関心を持つようになった。
 秋、庭先で炭火をおこし、落葉に肉と味噌を置いて焼いてみた。不思議なことに味噌をつけた朴の葉は燃えない、ちいさな網になった。味噌はほどよく焦げた。
 ホウバの香りがいいですね、という客人たちはいう。それほどとも思えないが朴葉で焼く野趣がいい。コンロでサンマを焼くのが我が家のもてなしになっていたが、これに朴葉焼きが加わった。すっかり我が家の名物になった。
 朴の木はまだまだ勢いがいい。枝の間に野鳥が巣をかけた。落葉の頃にはどこかに飛び立った。毎年、冬枯れの時期には植木屋さんに剪定をしてもらう。庭を埋めつくすほどの落葉。苦々しく片づけていたが、いまは一枚ずつ拾ってシーズンオフの朴葉焼に備えるようになった。
 この朴の木はいまやわが家の暮らしに欠かせない存在になっている。坂の下からわが家に来るお客さんのなかには朴を目印にする人もいる。親父が亡くなってもう30年になる。
朴葉余話
 朴葉を炭火に直接あてると、味噌のない部分はやはり焦げてしまう。あれやこれや試みたところ。乾いた葉に食用油を塗ると不思議と焦げないことがわかった。 ところが先日、朴葉焼の店で、こんな妙案を聞いた。まだあおい葉をとりこみ、これを蒸して保存する。使う前に一晩、水につけて使うといいですよという。とりあえず、今年の葉は蒸して保管することにした。(99.7.18)

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